生成AIで減った工程と、増えた工程。エンジニアの仕事は置き換わったのではなく入れ替わった
「AIでエンジニアの仕事がなくなるか」は工程ごとに答えが違います。要件定義から運用までを工程に分け、どこが減ってどこが増えたのかを整理したうえで、減った工程に時間を使ってきた人が何をすればいいかを書きました。

目次
「AIでエンジニアの仕事はなくなるか」という問いは、答えが出ない形になっています。仕事を一塊で見ているからです。
実際に起きているのは、工程ごとの増減です。減った工程と増えた工程があり、総量はあまり変わっていません。だから「なくならない」も「仕事が変わった」も両方本当で、自分がどの工程に時間を使ってきたかによって影響の大きさが違います。
この記事では、工程ごとに何が起きたのかを分けます。
工程ごとの増減
開発の工程を分けて、生成AIが入った前後で時間がどう動いたかを並べます。
| 工程 | 何が変わったか | 向き |
|---|---|---|
| 実装 | 時間の大半を占めていたものが、大きく減った | 大幅減 |
| 調査・エラー対応 | 検索して試す時間が、ほぼ聞いて確かめる時間になった | 大幅減 |
| テスト | 生成できるようになったが、妥当かの判断は残る | 微減 |
| 要件を決める | 案出しは速くなったが、決めるのは変わらず人 | 変わらず |
| 設計・技術選定 | 選択肢を集める時間は減り、選ぶ時間が残った | 増 |
| 統合・つなぎ込み | 部分ごとに出てきたものをつなぐ作業が増えた | 増 |
| 運用・障害対応 | 自分が書いていないコードを直す難しさが加わった | 微増 |
| 出てきたものの判定 | 他人のコードを読む作業に近づき、量が増えた | 大幅増 |
減ったのは「手を動かす時間」と「調べる時間」です。増えたのは「読む時間」と「決める時間」です。コードを書く仕事から、出てきたコードを判定する仕事に寄りました。
減った工程に時間を使ってきた人が影響を受ける
ここが実際の分かれ目です。
実装の速さが持ち味だった人
- 仕様が決まってから書くのが仕事だった
- 調べて解決する速さを評価されていた
- 定型的な実装を数多くこなしていた
- 判断は上流の人がしていた
決める側に関わっていた人
- 要件を詰める会議に出ていた
- 構成を自分で選んできた
- レビューする側をやっていた
- 運用で壊れた経験がある
左側は、能力が落ちたわけではありません。評価されていた部分がAIで埋まったので、同じ働き方では差が出なくなったということです。しかも左側の人は、判断の経験が少ないぶん、右側に移るのに時間がかかります。
この「何が残るのか」という全体の見立てはAI時代に生き残るエンジニアは何が違うのかに書いています。
増えた工程は、やっていることの質が変わる
「判定が増えた」と書きましたが、これは以前のコードレビューとも違います。
- 自分が書いていないコードを、仕様を把握した状態で読む
- 動くことは確認済みで、見るのは設計・異常系・将来の変更
- 否定の理由を言葉にしないと、採用か却下かを決められない
- 読む量が多いので、見る順番を決める必要がある
要するに、レビュアーの仕事に近づきました。レビューを受けた経験・した経験が少ない人には、これがかなりきついです。判定の基準が自分の中にないので、出てきたものを読んでも採否を決められず、結果として「動いたから採用」に流れます。
レビュー経験がないまま年数が経った場合に何が抜けるかはコードレビューを受けたことがないまま年数が経つとに書きました。
増えた工程に移るためにやること
やることは学習量を増やすことではなく、工程の上流に自分を置くことです。
いまの業務でできること
- 01AIが出したコードを採用する前に、却下した案とその理由を1行書く
- 02仕様が決まる会議に出て、1つ意見を出す(決める工程に自分を入れる)
- 03自分が書いていないコードを読む時間を、週に1時間とる
- 04動いた直後に「なぜこれで動くのか」を確かめる(ここで経験が入る)
- 05障害や不具合の原因を、自分で追い切る回数を増やす
4つ目を飛ばすと、速度だけが上がって判断が増えません。これがAIを使っていてスキルが伸びない感覚の正体です。詳しくはAIで実装は速くなったのに、スキルが伸びている気がしないに分けて書いています。

書いていないコードの運用が、新しく重くなった
あまり語られませんが、増えた負荷のひとつです。AIで素早く作ったコードは、半年後に自分が書いた記憶のないコードになります。障害が起きたときに読む側の負荷は、自分で書いたコードより高くなります。
対策はひとつで、採用した時点で理由を残すことです。コードの中のコメントでも、プルリクエストの説明でも構いません。判断を残しておかないと、将来の自分が他人のコードを読む状態になります。
正直なところ:工程の総量は減っていない
「AIで仕事が半分になった」という話は、工程の一部だけを見ています。実装と調査は確かに大きく減りました。一方で、判定と統合は増えました。差し引きで速くはなっていますが、空いた時間はより判断の重い工程に吸われています。
だから、楽になった感覚がないのは正常です。疲れの種類が、手を動かす疲れから、決める疲れに変わっています。
学習にお金をかけるかどうかの判断についても同じ分け方が効きます。「AIがあるならプログラミングスクールは不要」は、半分だけ正しいに、置き換わった部分と置き換わっていない部分を書きました。
まとめ
| よくある言い方 | 工程で見ると |
|---|---|
| エンジニアの仕事がなくなる | 実装と調査が減り、判定と統合が増えた |
| AIで開発が半分の時間になる | 速くはなったが、重い工程に時間が移った |
| プログラミングを学ぶ意味がない | 書く意味は減り、判定する意味は増えた |
| 上流に行けば安全 | 上流が増えたのは事実。ただし判断の経験が要る |
生成AIが変えたのは仕事の有無ではなく、時間がかかる工程の場所です。実装の速さで評価されてきた人は、評価の軸がずれた位置に移りました。移った先は判定と決定なので、必要なのは新しい知識より、自分で決めて外から判定された経験です。
JISOUは実務経験者向けのオンラインスクールで、受講生は自分のアイデアでサービスを作り、提出したコードに現役エンジニアのレビューが入ります。AIを使うことは止めていません。見ているのは、出てきたコードを自分の判断として説明できるかどうかです。