エンジニアの年収が上がらない理由は、スキルより手前にある
スキルを上げても年収が動かないのは、給与が本人の実力ではなく等級・事業の利益率・社内相場で決まっているからです。年収を決めている4つの要素を分け、スキルを上げても上がらない典型と、順番として何から手をつけるかを整理しました。

目次
技術の勉強を続けていて、業務の難易度も上がっているのに、年収がほとんど動かない。この状態は、本人の努力不足ではないことが多いです。
理由は、年収が本人の実力だけでは決まっていないからです。実力は要素の1つにすぎず、しかもいちばん効く要素ではありません。ここを知らないままスキルを上げ続けると、効かない場所に時間を投げ続けることになります。
この記事では、年収を決めている要素を分解して、スキルがどこに効くのかを位置づけます。
年収を決めているのは4つ
自分で動かせるものと、動かせないものが混ざっています。
| 要素 | 中身 | 自分で動かせるか |
|---|---|---|
| 事業の利益率 | 会社が1人あたりいくら稼いでいるか | ほぼ無理 |
| 等級の設計 | その等級の上限がいくらか | 等級を上げるしかない |
| 社内の相場 | 同じ等級の人がいくらもらっているか | 無理 |
| 代替可能性 | 抜けたときに困る度合い | 動かせる |
スキルが効くのは4つ目だけです。しかも4つ目は、社内で誰にも代われない状態を指しているので、技術的な難しさとは必ずしも一致しません。社内固有の仕組みに詳しい人は代替しにくいですが、それは外では評価されません。
1つ目がいちばん効きます。利益率の低い事業に属している場合、個人の評価が最高でも原資がないので上がりません。ここに気づかずに評価面談でスキルの話をしても、話が噛み合いません。
社内で上げるのと、転職で上げるのは別のゲーム
同じ「年収を上げる」ですが、効く材料が違います。
等級と評価の制度に乗る
- 評価されるのは社内で見えている仕事
- 上がり幅は等級テーブルで決まっている
- 年1回しか判定の機会がない
- 社内固有の知識も評価に入る
市場の需給で決まる
- 評価されるのは外に持ち出せる経験
- 上がり幅は会社と等級で一度に変わる
- 社内固有の知識は情報にならない
- 代わりに面接で説明できるかが要る
社内の昇給が小さいのは、制度としてそう設計されているからです。等級が1つ上がって動く幅は、たいてい決まっています。転職で動く幅が大きいのは、会社・事業・等級が同時に変わるからで、本人の実力が急に伸びたからではありません。
社内評価と市場評価がなぜズレるのかはエンジニアの市場価値を上げる方法に書きました。
スキルを上げても年収が上がらない典型
次の3つは、よく起きます。
評価されるのは、難しさではなく範囲
実装の難易度を上げても、任されている範囲が同じなら等級は動きません。等級の定義は、たいてい「どこまでを自分で決められるか」で書かれています。難しい実装を速くこなす人は便利ですが、便利であることは等級の条件に入っていません。
社内でしか通じない技術に時間を使っている
社内フレームワーク、独自の運用手順、古い構成の保守。これらに詳しくなると社内では代替しにくくなりますが、外には持ち出せません。結果、社内では上がらず、転職しても評価されない状態になります。常駐や受託で同じことが起きる構造はSESから自社開発に転職できない本当の理由に書いています。
やっている仕事が、評価する人に見えていない
障害を未然に防いだ、技術的負債を減らした、後輩の手戻りを減らした。どれも効果が大きい仕事ですが、起きなかったことは見えません。見えない仕事ばかりを引き受けていると、評価面談で話す材料がなくなります。
順番として、何から手をつけるか
効く順に並べると、だいたいこうなります。上から確かめてください。
年収が動かないときに確かめる順番
- 01いまの会社の等級テーブルで、自分の等級の上限がいくらか把握しているか(上限に当たっているなら昇給では動かない)
- 02事業の利益率が、年収を払える構造になっているか(受託・常駐は原資が契約単価で決まる)
- 03自分の仕事が、評価する人に見える形で残っているか(見えない仕事ばかりなら記録を作る)
- 04任されている範囲が、この1年で広がったか(広がっていないなら等級は動かない)
- 05外に持ち出せる経験が、この1年で増えたか(増えていないなら転職でも動かない)
1と2で詰まっているなら、何を勉強しても年収は動きません。転職の検討に入る段階です。3と4は社内で動かせます。5が増えていないなら、転職しても提示額が上がらないので、先にここを作る必要があります。

転職で上がる幅は、実力の伸びとは別の理由で決まる
転職で年収が上がるのは、だいたい次のどれかです。
- 事業の利益率が高い会社に移った
- 等級の設計が高い会社に移った
- 採用側が人手不足で、相場より高い提示をしている
- 前職の年収を基準に提示されるため、現在の額が低いほど上がり幅が小さい
4つ目は裏返すと不利に働きます。長く昇給していない人は、転職でも低く提示されやすいということです。この意味で、年収が動かない状態を放置すると、時間が経つほど動かしにくくなります。
経験年数と提示額の関係については実務経験2年のエンジニアの市場価値に、年数ではなく範囲が見られる構造を書きました。
正直なところ:年収だけを追うと行き先が狭くなる
年収は分かりやすい指標なので目標に置きやすいのですが、それだけを基準にすると、利益率の高い事業に移るのが唯一の正解になります。そこに行くと今度は、やりたい技術や領域と合わないことが起きます。
実際に効くのは、任される範囲を広げることです。範囲が広がれば等級が上がり、転職でも説明できる材料が増え、どちらの道でも年収に効きます。範囲を広げるには判断の経験が必要で、これは技術書を読む時間では増えません。業務で取りにいくか、業務の外で自分が決めて作るかのどちらかです。
まとめ
| よくある前提 | 実際 |
|---|---|
| スキルを上げれば年収が上がる | 等級と事業の利益率が先に効く |
| 難しい実装ができれば評価される | 評価されるのは難しさではなく範囲 |
| 社内で詳しくなれば代替されない | 社内固有の知識は外に持ち出せない |
| 転職すれば上がる | 上がるのは会社と等級が変わるから |
年収が上がらないときに最初にやることは、勉強を増やすことではなく、自分の年収を決めている4つのうちどこで止まっているかを特定することです。等級の上限や事業の原資で止まっているなら、そこは勉強では動きません。
JISOUは実務経験者向けのオンラインスクールで、受講生は自分のアイデアでサービスを作り、提出したコードに現役エンジニアのレビューが入ります。任される範囲を広げるのに必要な「自分で決めた経験」を、業務の外で作る場として使えます。いまの経験が市場でどう読まれるのか判断がつかないなら、一度外の目を通してみてください。